
EPISODE #5
The Making of Merino Wool
英国のフットパスを歩いていると、ふと気付くことがある。
長い年月を経ても残り続けているものは、決して派手ではない。
石垣や生垣。踏み固められた小道。
そして、人々が日々使い続けてきた道具。
メリノウールもまた、そのひとつだと思う。
高い機能性が語られることは多い。
けれど、その価値は数字だけでは測れない。
季節を問わず着続けられること。歩く人の暮らしに自然と馴染むこと。
長い時間をかけて信頼を積み重ねてきたこと。
Caledoorがメリノウールを作り続ける理由も、そこにある。
今回は、その一着が生まれる背景を訪ね、編み立てと整理加工の現場を歩いた。
一本の糸から始まる

岐阜県羽島市。
Caledoorのメリノウールを編み立てる大橋ニットの工場では、編み機が規則正しい音を響かせていた。
一本の糸が送り出され、ゆっくりと生地へ姿を変えていく。
機械の動きは驚くほど正確でありながら、どこか静かで淡々としている。
完成した一着を見ているだけでは想像しにくいが、生地の表情や着心地の多くは、この瞬間から少しずつ形づくられていく。
柔らかさ。膨らみ。自然な伸縮性。
どれも後から加えられるものではなく、一本の糸と編みの積み重ねによって生まれるものだ。
ゆっくりと巻き取られていく生地を眺めていると、一枚の服が出来上がるまでの長い時間を感じる。


生地に表情を与える

編み上がった生地は、次の工程へと運ばれる。
向かったのは、岐阜県大垣市にある艶金。
1889年の創業以来、130年以上にわたり生地と向き合い続けてきた染色整理工場である。
工場へ足を踏み入れると、空気の温度が少し変わる。
静かに立ち上る蒸気。
規則正しく動き続ける大きな設備。
ここでは生地を染めるだけではない。
洗い、整え、風合いを引き出し、生地本来の魅力を形にしていく。
歩き続けるための服だからこそ、縮みにくく、毛玉が起きにくく、長く着続けられる生地へと丁寧に整えていく。
着心地だけでなく、その一枚と長く付き合うための準備も、この工程で行われている。
「整理加工」という言葉は表に出ることは少ない。
けれど実際には、この工程によって生地の印象は大きく変わる。
触れたときの柔らかさも。
袖を通したときの心地よさも。
歩き続けた先で感じる快適さも。
数字だけでは語れない部分が、ここで静かに整えられていく。


見えない仕事

工場の中を歩いていると、完成品からは見えない景色が次々と現れる。
天井近くまで伸びる配管。
静かに動き続ける機械。
丁寧に積み重ねられた生地。
どれも特別に見せるためのものではない。
日々の仕事を積み重ねるために存在している風景だ。
けれど、その積み重ねがなければ、良い生地は生まれない。
服は完成した瞬間だけで作られているわけではない。
糸を選ぶ人がいて。
生地を編む人がいて。
風合いを整える人がいる。
一枚のメリノウールの背景には、多くの技術と経験、そして長い時間が重なっている。

歩くための服

Caledoorは、英国の歩く文化に着想を得ている。
けれど、その服は日本の工場で丁寧につくられている。
英国のフットパス。
羽島の大橋ニットで編まれるメリノウール。
大垣の艶金で施される整理加工。
本来なら交わることのない風景かもしれない。
けれど、一枚のメリノウールを通して、それらは静かにつながっている。
歩くための服。その背景には、多くの人の仕事がある。
今回工場を訪れ、改めて感じたのは、良い服は良い現場から生まれるという、ごく当たり前のことだった。
私たちはこれからも、そんな現場とともに、歩く人の日常に寄り添う一着をつくり続けていきたい。
FACTORY

大橋ニット株式会社
岐 阜 県 羽 島 市 に 拠 点 を 置 く ニ ッ ト 生 地 メ ー カ ー 。尾 州 産 地 と い う 土 地 柄 も あ り 、 創 業 当 初 か ら ウ ー ル 素 材 を 中 心 と し た ニ ッ ト 生 地の 製 造 に 取 り 組む。長 年 培 っ て き た ウ ー ル の 取 り 扱 い 経 験 と 編 み の 技 術 を 基 礎 に 、 現 在 で は 綿 ・ ウ ール ・ ポ リ エ ス テ ル な ど の 合 成 繊 維 を 含 め 、 幅 広 い 素 材 に 対 応 し て い ま す 。特 に 、 ハ イ ゲ ー ジ の 丸 編 ニ ッ ト 生 地 を 得 意 分 野 と し て お り 、 素 材 の 特 性 を 活 か しな が ら 、 細 か な 風 合 い や 編 地 の 表 現 に も 対 応 し て い ま す 。時 代 と と も に 求 め ら れ る 素 材 や 製 品 も 変 化 す る 中 で 、 こ れ ま で 培 っ て き た 技 術 を大 切 に し な が ら 、 新 し い 素 材 や 組 み 合 わ せ に も 積 極 的 に 取 り 組 ん で い ま す 。「 昔 か ら の 技 術 を 守 る だ け で は な く 、 時 代 に 合 わ せ て 変 化 し て い く こ と 」 を 大 切に し 、 ニ ッ ト 生 地 の 可 能 性 を 追 求 し て い ま す 。
Official Site:https://oha-k.com/

株式会社艶金
艶金1889年創業。織物を木槌で打って光沢を出す「艶出し」を祖業とし、創業者・墨宇吉の通称が金兵衛だったことに由来して「艶金」となった。 尾州産地において整理加工の機械化に初めて成功したほか、いち早く合繊や編み地の加工にも挑戦してきた歴史を持ち、現在は天然繊維から化合繊、複合繊維まで幅広く染色加工を手がける。 また1987年にバイオマスボイラーへ燃料転換を行うなど、早期から環境配慮型のモノづくりに取り組んでいる。